【働き方改革】年5日の年次有給休暇の時季指定義務(全企業:2019年4月より)

2019年01月05日

働き方改革

 働き方改革には、大きく2つの内容が盛り込まれています。1つが時間外労働の上限規制です。これは労働者の長時間労働を改善することを目的とするものです。
 https://www.sn-tax.jp/2557/

 もう1つは、労働者の有給休暇の取得率が低く、有給休暇を取得できていないことを改善するためのものです。2019年4月から、すべての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。

年5日の年次有給休暇の時季指定義務について、具体的に教えて下さい
 使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。

 (例)入社日:2019年4月1日、年次有給休暇付与日:2019年10月1日(10日付与:基準日)
  → 2019年10月1日~2020年9月30日までの1年間に5日年次有給休暇を取得させなければなりません。

●時季指定の方法
 使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。
 使用者からの時季指定は、基準日から1年以内の期間内に、適時に行うことになりますが、年5日の年次有給休暇を確実に取得するに当たって、例えば、
①基準日から一定期間が経過したタイミング(半年後など)で年次有給休暇の請求・取得日数が5日未満となっている労働者に対して、使用者から時季指定をする
②過去の実績を見て年次有給休暇の取得日数が著しく少ない労働者に対しては、労働者が年間を通じて計画的に年次有給休暇を取得できるよう基準日に使用者から時季指定をする
ことなどが考えられます。

●時季指定を要しない場合
 既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また、することもできません。

 また、休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。

(規定例)第○条
1項~4項(略)(※)厚生労働省HPで公開しているモデル就業規則をご参照ください。
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかか
わらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社
が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただ
し、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得し
た日数分を5日から控除するものとする。

今回の年5日の年次有給休暇の時季指定義務の対象となる労働者の範囲を教えて下さい
 法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者が対象です。
 対象労働者は、正社員、パートを問わず、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。パートタイム労働者など所定労働日数が少ない労働者のうち年次有給休暇の付与日数が10日未満の者は対象外です。

 

労働者が自ら有給休暇を申請・取得していますが、これとは別に年5日の時季指定を行う必要がありますか
 労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めて与えた年次有給休暇の日数(計画年休)については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除します。
 つまり、「使用による時季指定」「労働者自らの請求・取得」「計画年休」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させれば足りることになります。また、これらいずれかの方法で取得させた年次有給休暇の合計が5日に達した時点で、使用者からの時季指定をする必要はなく、また、することもできません。
2019年4月より前(例えば2019年1月)に10日以上の年次有給休暇を付与している場合には、そのうち5日分について、2019年4月以後に年5日確実に取得させる必要がありますか
改正法が施行される2019年4月1日以後、最初に年10日以上の年次有給休暇を付与する日(基準日)から、年5日確実に取得させる必要があります。よって、2019年4月より前に年次有給休暇を付与している場合は、使用者に時季指定義務が発生しないため、年5日確実に取得させなくとも、法令違反とはなりません。
使用者が年次有給休暇の時季を指定する場合に、半日単位年休とすることは差し支えありませんか。また、労働者が自ら半日単位の年次有給休暇を取得した場合には、その日数分を使用者が時季を指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができますか。
 時季指定に当たって、労働者の意見を聴いた際に、半日単位での年次有給休暇の取得の希望があった場合には、半日(0.5日)単位で取得することとして差し支えありません。また、労働者自ら半日単位の年次有給休暇を取得した場合には、取得1回につき0.5日として、使用者が時季を指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができます。
 なお、時間単位の年次有給休暇については、使用者による時季指定の対象とはならず、労働者が自ら取得した場合にも、その時間分を5日から控除することはできません。
パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者であって、1年以内に付与される年次有給休暇の日数が10日未満の者について、前年度から繰り越した日数を含めると10日以上となっている場合、年5日確実に取得させる義務の対象となるのでしょうか。
 対象とはなりません。前年度から繰り越した年次有給休暇の日数は含まず、当年度に付与される法定の年次有給休暇の日数が10日以上である労働者が義務の対象となります。
前年度からの繰り越し分の年次有給休暇を取得した場合には、その日数分を使用者が時季を指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができますか。
 労働者が実際に取得した年次有給休暇が前年度からの繰り越し分の年次有給休暇であるか当年度の基準日に付与された年次有給休暇であるかについては問わないものであり、ご質問のような取扱いも可能です。
使用者が年5日の時季指定を行ったかどうか記録を残す必要がありますか
 使用者は、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存しなければなりません。年次有給休暇管理簿とは、時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類をいい、当該年休を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなけれなりません。
使用者が時季指定した年次有給休暇について、労働者から取得日の変更の申出があった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。また、年次有給休暇管理簿もその都度修正しなくてはいけないのでしょうか。
 労働者から取得日の変更の希望があった場合には、再度意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った時季とすることが望ましいです。また、取得日の変更があった場合は年次有給休暇管理簿を修正する必要があります。
使用者が年5日の時季指定を行わず、有給休暇をまったく取得させなかった場合、どのような罰則がありますか
 年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合、30万円以下の罰金が科せられます。
今後、年5日は最低でも有給休暇を取得させなければならないため、有給休暇の計画的付与制度を導入しようと考えていますが、いかがでしょうか
 年次有給休暇の計画的付与制度(計画年休)は、当該制度で取得した年次有給休暇も5日取得義務化の5日としてカウントできるため効果的です。

●日数
 計画年休は、付与日数から5日を除いた残りの日数を計画的付与の対象にできます。
 (例)年次有給休暇の付与日数が11日の労働者
   6日間は労使協定で計画的に付与できます。残り5日間は労働者が自由に取得することができます。

●導入手続
 計画年休を導入する場合には、まず、就業規則の年次有給休暇の規定に「労働者代表との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることができることとする」などのように定めることが必要です。
 実際に計画的付与を行う場合には、就業規則に定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、書面による労使協定を締結する必要があります。なお、この労使協定は労働基準監督署に届け出る必要はありません。

●活用例①
 夏季や年末年始に計画的付与の年次有給休暇を組み合わせることで、大型連休とすることができます。

●活用例②
 暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日の橋渡しとして計画的年休を活用し、連休とすることができます。

●活用例③
 業務の比較的閑散な時季に計画的付与を実施することによって、業務に支障をきたさないで年次有給休暇の取得率を向上させることができます。