【税務調査】2ヵ所社宅の場合の床面積判定と経済的利益の計算
2017年06月09日
税法相談事例
今回の税務調査では、会社が役員に貸与した社宅について適正な賃貸料相当額を役員から徴収しているかがポイントとなりました。
役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)を受け取っていれば、給与として課税されません。
賃貸料相当額は、貸与する社宅の床面積により小規模な住宅とそれ以外の住宅とに分け、次のように計算します。
(注)小規模な住宅とは、建物の耐用年数が30年以下の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅、建物の耐用年数が30年を超える場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅をいいます。
●役員に貸与する社宅が小規模な住宅である場合
次の(1)から(3)の合計額が賃貸料相当額になります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
●役員に貸与する社宅が小規模な住宅でない場合
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。
(1) 自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%(建物の耐用年数が30年を超える場合には10%)
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
(2) 他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
貸与する社宅が小規模な社宅なのかどうかで計算式が異なり、適正な賃貸料相当額も変わります。小規模な社宅の方が適正な賃貸料相当額も少額となります。
ここまでであれば別段難しい論点もなく、税務調査で争点となることはないでしょう。
しかし、中小企業で営業所が複数ある企業の場合で、社長が各営業所を飛び回り、陣頭指揮をとっている会社は数多く存在します。
今回の税務調査の対象企業も、A県とB県に営業所があり、A県にもB県にも社長に貸与している社宅があります。社長のA県の社宅(マンションの1室:60㎡)とB県の社宅(マンションの1室:55㎡)の利用状況は、ともに行ったり来たりを繰り返し、1ヵ月当たり半分ずつといった感じです。
このように社長に2ヵ所の社宅を貸与している場合で、税務調査官の主張は、
①小規模な社宅(99㎡)は、2ヵ所の社宅の床面積の合計床面積(60㎡+55㎡=115㎡)で判定すべきであり、その結果、小規模な社宅には該当しない
(注)合計床面積で判定すべき根拠は、市販の書籍に2ヵ所社宅の場合の取扱いの解説文および税務署内の文章とのこと
※市販の書籍の解説文の前提条件は、「大阪にある社宅に家族を残して、福岡に単身赴任し、福岡で社宅の貸与を受けた場合」であり、その場合は、2ヵ所社宅の合計床面積で判定するという記述です。
②小規模な社宅に該当しないため、会社が借り上げているA県の社宅の賃借料17万円/月、B県の社宅の賃借料13万円/月の合計30万円の50%相当額の15万円から社長から徴収している賃貸料3万円を控除した12万円/月、年間144万円が経済的利益として給与課税の対象となる
という2点です。
仮にこの主張どおり課税された場合、所得税・住民税が年間70万円、3年間210万円が追徴課税されてしまいます。
- 2ヵ所社宅の場合の床面積の判定に関して、どのように反論したのですか
-
社会通念上99㎡を超えるマンションは少し贅沢だなという感覚があり、そのため、社宅の適正な賃貸料相当額が小規模な社宅に比べて高くなります。この感覚は、あくまでも1つの部屋で比較したらという前提と考えられます。
例えば、7県に営業所がある会社の社長が、7県飛び回って管理しなければならないため、それぞれの県に25㎡のワンルームマンションの社宅を7か所貸与されたとした場合、合計床面積は25㎡×7=175㎡となります。1部屋あたりは25㎡のワンルームです。合計175㎡あるからといって、一般的な水準よりも贅沢だなという感覚にはなりません。ということは、制度の趣旨から考えても「小規模な社宅に該当しない」という主張は誤りです。
そこで当事務所が持ち出した根拠規定が、所得税法施行令第21条第4号です。
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(非課税とされる職務上必要な給付)
第二十一条 法第九条第一項第六号 (非課税所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一~三 省略
四 国家公務員宿舎法 (昭和二十四年法律第百十七号)第十二条 (無料宿舎)の規定により無料で宿舎の貸与を受けることによる利益その他給与所得を有する者でその職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住するために家屋の貸与を受けることによる利益
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この第4号の規定は、通達(所基通9-9)によって
①船舶乗組員に対し提供した部屋
②常時交代制により昼夜作業を継続する事業場において、その作業に従事するため常時早朝又は深夜に出退勤をする使用人に対し提供した家屋又は部屋
③通常の勤務外においても勤務を要することを常例とする看護婦、守衛等その職務の遂行上勤務場所を離れて居住することが困難な使用人に対し提供した部屋
④A早朝又は深夜に勤務することを常例とするホテル等の住込みの使用人、B季節労働に従事する使用人、C鉱山の掘採場に勤務する使用人、D紡績工場に勤務する使用人等に提供した家屋又は部屋
が定められています。この通達には今回の社長のようなケースは規定されていませんが、
①社長の肉体的負担、精神的負担を考えると1ヵ所の社宅に居住できることが望ましいが、職務の遂行上やむを得ない必要に基づき2ヵ所の社宅の貸与を受けざるを得なかったこと
②会社から指定された場所に居住していること
から、2ヵ所の社宅のうち1つは所得税法施行令第21条第4号に該当し、無償で貸与しても所得税は非課税であり、適正な賃貸料相当額を徴収しなければならない社宅に該当しない、よって、2ヵ所の社宅の合計床面積で判定することは誤りであることを主張し、その主張が認められました。したがって、1ヵ所の社宅の床面積で判定すると小規模な社宅に該当し、適正な賃貸料相当額を社長から徴収しているため、給与課税による追徴課税はありませんでした。
税務調査の終了まで4ヵ月かかる長丁場な調査となりましたが、いい経験になりました。