【法人税】太陽光設備の投資効果 ~表面利回りと実質利回り、投資回収期間  

2015年12月28日

税法相談事例

 太陽光設備は投資金額の全額を即時に経費計上できるという「即時償却」が可能なため、節税対策&利回り投資として人気がありました。

 グリーン投資税制による「即時償却」が平成27年3月末取得分をもって終了となり、そのあとは生産性向上設備投資促進税制による「即時償却」を適用することができていました。しかし、この生産性向上設備投資促進税制も平成28年3月末取得分で適用期限を迎えます。
 
 顧問先から太陽光設備への投資の相談を数多く受けましたが、下記の理由から投資には「反対」である旨のアドバイスを行ってきました。
(1)表面利回りはおおむね10%前後であり、営業パンフレットでは「10年で投資金額が回収でき、11年目以降は利益になる」と言っているが、10年で投資金額は回収できない。
(2)投資不動産のように中古市場がないため、中途で現金化したい時に売却するのが困難である(流動性が低い)。
(3)固定価格買取制度の20年間が終了した後、廃棄するのか、稼働を続けるのか、いずれにしてもゴミ同然のお荷物になる可能性がある。

 今回、最後の駆け込みで太陽光設備への投資を検討している顧問先から投資効果のシミュレーション資料を見て欲しいと頼まれました。
 資料は大手企業が作成したものだけあって、今まで見てきた中で最もちゃんとしたものでした。
 しかし、その資料(フルローンで太陽光設備を取得する場合)では、キャッシュフローは初年度からずっとマイナスで、20年間の合計でもマイナスです!20年間で資金がマイナスになるということは”投資しない方がいい”ということです!

 太陽光設備への投資は、本当はどの程度の効果があるのか知りたく、シミュレーションをし直しました。

太陽光設備の投資は、おおむね10年で回収できるというのは本当でしょうか
太陽光設備の表面利回り(年間売電収入÷投資金額)はおおむね10%前後です。したがって、表面利回りで考えれば10年で投資金額は回収できるということになります。
 
 しかし、これは営業トークであり、素人の方が最初に投資する時に陥るトラップです。
 
 実際には、設備に対する固定資産税(償却資産税)が年間1.4%かかります。メンテナンス費用は、投資金額のおおむね0.5%が年間でかかります。銀行借入で購入するときは金利がかかります。また、売電収入から経費を差し引いて利益が残れば法人税等が課税されます。

 このように売電収入から経費、法人税等を差し引いて、いくら残るのか、この額で投資金額を回収するには何年かかるのかを見なければなりません。

 表面利回りから何年で回収できるのかを考えるのは間違っています。

太陽光設備の減価償却について注意点を教えて下さい
 法人が取得する太陽光設備は「機械装置」として法定耐用年数「17年」で「定率法」で減価償却します。

 本業の利益と相殺したいということで「即時償却」や「30%特別償却」を適用し、経費計上できる減価償却費を増やすことも可能ですが、この場合は、その後の減価償却費が減ってしまい、法人税等の課税が受けてしまいます。

 単年度だけでみれば「即時償却」や「30%特別償却」の方が節税効果が高いですが、耐用年数の長期間でみれば「税額控除」を選択した方が税負担の軽減を受けることができます。

 顧問先から見せてもらった投資効果シミュレーションで20年間のキャッシュフローの合計がマイナスになっていた理由は、「定率法」で、かつ「17年」で償却していたからです。

 定率法で償却すると償却初期のころに多額の減価償却費を計上することができ、後半は減価償却費がほとんどありません。一方、売電収入は20年間、ほぼ毎年同じくらいの金額があがってくるため、償却初期は大幅な赤字、後半は減価償却費がほとんどないため大幅な黒字です。
 赤字であっても青色申告すれば繰越すことができ、翌期以降の黒字と相殺できます。しかし、繰越控除期間が9年のため、それ以降は切り捨てられてしまいます。
 キャッシュフローの合計がマイナスだった理由は、欠損金が切り捨てられてしまい、後半の法人税等の負担が相当生じるためでした。
 これを解決する方法は、「定額法」で償却することです。定額法だと毎期同じ金額が減価償却費として計上できるためです。法人の場合、法定償却方法が定率法であるため、定額法を採用するには、税務署への届出の提出が必要です。

 また、法定耐用年数は17年ですが、売電収入が20年間固定価格買取制度で保障されているため、減価償却期間も20年とした方が損益のバランスがとれます。法定耐用年数17年のものを20年で減価償却するということは、17年で償却するよりも毎期の減価償却費は少ないということですので、税務調査で修正を求められることはありません。

 「即時償却」「30%特別償却」を適用しない場合は、「定額法」償却で、かつ「20年」で償却する方法が欠損金を有効活用でき、税負担がもっとも軽減されます。

実質利回りから考えた投資効果はどのくらいでしょうか
【前提条件】
1.投資金額  2,376万円(49.92KW)
2.売電単価  38.88円
3.固定資産税1.4%、メンテナンス費用0.5%/年(対投資金額)
4.借入金   2,376万円(金利2%、20年返済)
5.表面利回り 9%
6.減価償却  即時償却、30%特別償却は不適用。定額法、耐用年数20年で償却

【投資効果】
 上記の場合、売電収入から経費、法人税等を支払い、借入返済も行った後の20年間でのキャッシュの増加(純手取り)は約182万円のため、実質利回りは、182万円÷2,376万円=7.6%です。年間の利回りではなく、20年間の合計の利回りであることに注意して下さい。投資金額を純手取りで回収するのに18.5年かかります。

 仮に全額自己資金で投資した場合は金利負担がなくなるため、20年間でのキャッシュの増加は681万円。実質利回りは、681万円÷2,376万円=28.6%です。